日照権とは日当たりを確保して快適に暮らす権利。日照権侵害の基準や判例を解説

2021年12月13日

日照権とは日当たりを確保して、快適に暮らす権利のこと。家を建てるときや増築する際には、日照権についても考慮する必要があります。この記事では日照権侵害の基準や判例について、侵害された場合の対処法を紹介します。日照権について理解し、住宅を建築するときや、建築後のトラブル時の参考にしてください。

日当たりを確保する権利「日照権」にかかわる制限

日照権は必要最低限の日当たりを確保する権利のことですが、法律で定められているわけではありません。ただし建築基準法で定められている斜線制限と日影規制は、日照権に関わる法律と言えるでしょう。まずは斜線制限と日影規制を解説します。

建物の高さを制限する斜線制限

斜線制限とは、建築物の高さを制限することを言います。建物の高さは、道路の境界線等から上方斜めに引いた線の内側に収まらなければなりません。例えば、隣地にマンションのような高さのある建物が建築されると、日当たりが悪くなります。斜線制限には道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限があるため、建物を増築する際には、これらの制限を守る必要があります。また、これらの制限を守られずに建築物を建てられたときには、工事の差し止めや損害賠償の請求が可能です。

斜線制限①隣地斜線制限

隣の敷地の建物の採光や、通風を確保する目的の制限をいいます。隣地の建物の高さが20メートルもしくは31メートルを超える部分への制限で、主にマンションやオフィスビルが建設される場合に規制されます。第一種、第二種低層住居専用地域、田園住居地域では、建物の高さを10メートルまたは12メートルと制限されているため、隣地斜線制限には適用されません。

斜線制限②道路斜線制限

道路の幅に基づき、道路を挟む反対側の建物への日照や採光、通風に支障をきたさないようにするための制限をいいます。道路の反対側の境界線より、上空に向かい、一定の勾配で引いた斜線より下に建物を建てる必要があります。

斜線制限③北側斜線制限

建物の北側の採光や通風を確保するため、建物の高さを制限したものを言います。北側の隣地から敷地を斜めの線で、建築可能な範囲を計測して、制限します。

日照時間を確保する日影規制

「にちえいきせい」「ひかげきせい」と言われています。日影規制は、1年で最も日の短い冬至の日の午前8時から午後4時までを基準とし、日影を一定時間以上生じさせないと定めたもの。主に建築物の高さに関係します。斜線制限と合わせて周辺への日照を確保しています。

日照権の侵害となる基準や判例

裁判官の手元

日照権が侵害された場合や侵害されることが予想される場合、工事の差し止めを請求できたり、損害賠償を請求できたりします。日照権の侵害基準は、受忍限度と考えられています。ここでは受忍限度や日照権に関わる判例を見ていきましょう。

日照権の侵害基準となる受忍限度

受忍限度とは、影響を受ける人の我慢するべき範囲の限界のこと。我慢の限界は人それぞれですが、受忍限度は法律による明記がありません。そのため市町村や都道府県ごとに基準が設けられ、おおむね以下のような基準で判断されています。

  • 日照阻害の程度(阻害時間や阻害範囲)
  • 先住関係(どちらが先に建てたか)
  • 地域の周辺環境(住宅街なのか、商業地域なのかなど)
  • 生活への悪影響(被害者の生活にどのような影響を与えているのか)
  • 建築基準法の制限や規制に違反していないか
  • 交渉の経緯

日照権が認められた判例

[2階部分の増設、マンションを建設した際の事例]
増築やマンション建設によって、隣接した住宅に住む被害者の日照がほとんどの時間で遮られていた。

日照権が認められなかった判例

[太陽光システムの稼働率が低下したため、損害賠償を請求した事例]
被告側に建築基準法などの違反がなかった。さらに原告側が設置した太陽発電システムの高さが2.5メートルと、一般的なものと比較して低かったため、日照権侵害とは認められなかった。

またマンションの建設や隣接地の増築により、日照時間が減ったとしても、受忍限度を超えていないと判断された場合は日照権の侵害が認められない。

【建築後】日照権が侵害される場合の対処法

話し合いをする人達

家を建築した後に日照権が侵害されることもあります。日照権が侵害された場合の対処の流れを紹介します。

①まずは直接交渉する

まずは話し合いをしましょう。マンションなどの高層建築物により、日照権が侵害された場合は、自分以外にも被害を受けている人がいないか確認することも大切です。多くの人が被害を受けていると主張した方が、理解を得られやすいためです。

②各都道府県の建築指導課に相談する

話し合いで解決できないときは、各都道府県の建築指導課に相談をしましょう。都道府県が間に入り解決に導くためにサポートしてくれます。

<サポートの流れ>

1.あっせん

紛争調整申出書を知事に提出するとあっせんが開始されます。あっせんとは、各都道府県が、双方の主張の要点を確かめ、紛争の解決に協力を導くことです。通知された日時に指定場所に行き、約2時間の非公開手続きが行われます。あっせんで解決しない場合には、調停が開始されます。

2.調停

当事者からの申し込みもしくはあっせんで解決しなかった場合に、知事が必要と判断・当事者も受諾した場合に開催されます。知事が委託した、法律・環境・建築の3人の専門家で構成された調停委員会が間に入り、話し合いが行われます。ただし調停を続けても解決の見込みがない場合には、知事の判断で打ち切りになることがあります。あっせんや調停に費用はかかりませんが、損害賠償請求などが行えません。

③弁護士に相談し、民事調停を行う

弁護士に相談すると、損害賠償の対象になるかなどのアドバイスをしてもらえます。民事調停は、訴訟よりも手続きが簡単で、費用も低額。ポイントを絞って話し合いを行うため、2、3回調停期日があり、3ヵ月以内には調停が成立し、円満に解決するケースが多いです。

④裁判所に仮処分を申し立てる

交渉や調停を行っているときでも、建物の建築や建設は進行中です。建築・建設工事を止めたい場合は、裁判所に建築工事の続行禁止について仮処分を申し立てします。訴訟を起こし、強制的に判断を求める方法もあります。

住宅展示場で日照権について相談してみよう

家を案内する人

これから家を建築する予定の方は、数棟のモデルハウスが立ち並んでいる住宅展示場へ行ってみましょう。住宅展示場では日照権に関する相談も可能です。気になるモデルハウスは、あらかじめ予約をしていくと、待ち時間なしで見学できます。

日照権のことを知り、対策や対処をしよう

窓から差し込む光

快適に生活を送るために大切な日照権。まずはどのようなものが日照権の範囲となるのか、しっかり理解しましょう。わからない部分は建築の依頼先などに相談してみてください。建築後のトラブルは、必要に応じて専門機関を頼るのも大切です。日照権のことを知り、きちんと対策と対処をしてくださいね。