幸運の鳥・ツバメを我が家に招こう!正しい巣の見守り方と糞対策を解説

2022年12月27日

毎年3月頃になると、遠く南の国から飛来し夏の終りまで日本で過ごすツバメ。優雅に飛ぶ姿や子育てをしている姿を見ると、思わず声援を送りたくなります。昔からツバメが家に巣を作るのは縁起がよいと言われており、一度でいいから巣作りの様子を間近で見てみたいという方も少なくないでしょう。しかし、なかなか自宅に巣を作ってくれなかったり、巣を作っても見守り方や糞対策の方法がわからなかったりと、心配事もつきものです。
そこで本記事では、ツバメの巣作りの見守り方や糞対策について、日本野鳥の会の神奈川支部・運営幹事である笠原逸子さんにお話を伺いました。

笠原さんプロフィール

日本野鳥の会の神奈川支部・運営幹事。昔飼っていた犬が亡くなりペットロスに陥った際、庭の木に止まった野鳥に心を奪われ癒やされたことをきっかけに野鳥の世界へ傾倒する。また、ながつた幼稚園の園長として長年教育に携わる。幼稚園敷地内の裏山に生息するたくさんの野生動物を通じ、子どもたちに命の大切さや地球の生態系について教えている。

ながつた幼稚園ホームページ

ツバメの生態

ツバメは北半球に生息する渡り鳥です。例年東南アジアで越冬し、春頃日本にやってきて繁殖期を迎えます。基本的には日本全国で見られますが、地域によって生息するツバメの種類は異なります。

笠原さんは、ながつた幼稚園でツバメの巣作りを見守り始めて10年強という大ベテラン。ツバメの現状を伺うと「10年前と比べてもツバメの数は減っているように感じます。毎年、何組ものツバメが幼稚園舎に巣を作ってくれましたが、今年は初めて巣作りをしませんでした」と肩を落とします。

「理由はさまざま考えられますが、ツバメが巣材を集める田畑の減少や天敵であるカラスの影響は大きいでしょう。また日本の環境だけでなく、越冬先の東南アジアの環境も影響しています。例えば環境悪化により餌が少なくなりツバメが体力を温存できなかったり、台風が増えているため遠征中に事故で命を落としてしまうといった可能性もあります。

越冬する場所と繁殖する場所、両方の環境が整ってないとツバメは生育数を維持できません。そしてツバメは常に命がけで越境しているということをぜひ知っていただき、積極的に巣作りを見守ってくれる方が増えることを願います」と笠原さんは力強くおっしゃいます。

ツバメが来る家、来ない家

ツバメは何千キロという距離を小さな体で飛び続け、毎年日本まで遠路はるばるやってきます。そして疲れた体を癒す間もなく、巣作りを始めます。そんなツバメが我が家に巣を作ったら――思わず「お疲れさま」とねぎらいたくなるかもしれませんね。
ではツバメは、どのような場所に好んで巣を作るのでしょうか。

「まず大前提として、巣材となる泥の調達先である田んぼが側にあること。そして餌となる昆虫が近くに生息していることが重要です。
そしてツバメは、カラスや蛇、猫などが近づきにくいような人間が頻繁に出入りする場所に巣を作ります。

例えば玄関や車庫に巣が多いのは、人の出入りが頻繁にあり、かつ軒下や梁などで天敵の死角になるからです。もしこれから家を建てる予定がありツバメの巣づくりに興味がある方は、玄関や車庫に梁を作るとツバメが巣を作りやすくなると思います」

どうしてもツバメを我が家に招きたいときは、人工巣を用意!

「ツバメは巣を作る場所探しにはとても慎重で、必ず下見をします。ツバメが建物の周辺を飛んでいたり軒先を出たり入ったりしていたら、それは巣作りの場所を探している証拠です。
またツバメは昨年の巣をそのまま使用することもあります。もし自宅にツバメを迎えたい場合は、事前に人工巣を設置しておいてもよいですね。

反対に、作ってほしくない場所にはネットや棘のあるシートなどを壁に貼って予防することも大切です。ツバメを含む野生鳥獣には『鳥獣保護管理法』という法律があって、卵や雛がいる巣を撤去すると法律違反になってしまうからです。

できればツバメが一生懸命作った巣を壊すのは控えてほしいところですが、どうしても困る場所に作られてしまった場合は卵を産む前あるいは巣立った後に取り壊すようにしてください」

人口巣の設置方法


(コルク粘土で作成した人工巣)

ツバメは集めてきた泥と枯草を合わせて壁に塗りつけ、半分にしたお碗型に巣を形成します。人工巣を用意する場合は、カップ麺の容器や市販のカゴなどで代用することもできます。

「日本野鳥の会では既製品の人工巣を販売(製品情報はこちら)しています。人工巣を設置する場合は、ツバメが飛来する3月上旬までに行いましょう。その際は、巣が動かないようにしっかり固定してくださいね」

ツバメの見守り方

ツバメは巣が完成すると1日に1個ずつ、計4〜6個の卵を産み、約2週間抱卵します。オスも積極的に育児に参加し、夜中も交代で抱卵を続けます。

ちなみにオスメスの見分け方は、尾羽の長さ。体長はほとんど変わらず、尾羽の長いほうがオスです。

雛が孵ると親鳥はオスメス交代でひっきりなしに餌を運び、雛を育てます。多いときは1日に500回以上も巣と餌場を往復して給餌します。餌は主に昆虫ですが、雛が小さいときはハエや蚊などの小さい虫を与え、大きくなるとトンボなどの大きな虫を与えるようになります。

「巣作り中の親鳥は、だんだんとほっそりしてくるんです。それだけ育児に100%の力を注いでいるんだと感動しますね」と笠原さん。

雛が親鳥と遜色ないほど大きくなると飛ぶ練習を始め、1週間ほどで巣立ちます。

巣作りから雛が巣立つまではトータルで約2〜3ヶ月。その間、私達はどのように巣作りを見守るとよいのでしょうか。

「ツバメは野生動物なので、基本的には何もせず見守ることが鉄則です。できるだけ邪魔をせず驚かさないように気をつけてください。ツバメが「ここは安全に子育てができる」と判断すれば、ほぼ間違いなく巣作りを最後まで続けます。

人の出入りはあまり気にしませんが、脚立を使って巣の中を覗いたり近くで大きな声で騒いだりしてしまうと、ツバメは危険を感じて子育てを放棄してしまう可能性があるので注意しましょう」

巣が壊れそうな場合の対処法は?

もし巣作りの途中で巣が壊れてしまった、あるいは巣が落ちそうになってしまった場合はどうすればよいでしょう。

「卵が孵ったあとは多少のことがあっても本能が勝って子育てを続けるので、もし巣が壊れそう、落ちそう、という場合は、親鳥がいないときに巣を補強してあげてOKです」

雛が巣から落ちてしまった場合の対処法は?

では雛が落ちてしまった場合も、助けてあげたほうがよいのでしょうか。

「人の手で巣に戻してしまうと、親ツバメがその雛にだけ餌をあげなくなることもあるので、基本的にはそのまま見守ってください。親ツバメは落ちた雛をくわえて巣に戻すことはできませんが、落ちた場所で餌やりを継続します」

雛が地面に落ちていたら思わず助けてあげたくなってしまいますが、ツバメのためにはグッと我慢が必要だそう。日本野鳥の会でも毎年、春に「雛を拾わないでキャンペーン」を実施しています。ツバメの命に関わるような場合以外は、手助けしない方が賢明なようです。

ツバメの糞対策

可愛らしいツバメの姿は見守りたいけれど、どうしても糞が心配という方は多いでしょう。対策法について、笠原さんに伺いました。

「勘違いしている方が多いのですが、ツバメの糞から虫が発生したり、鳥インフルエンザなどの感染症の危険性はありませんので、安心して巣作りを見守ってほしいなと思います。

またツバメは非常に綺麗好きなので、巣の中に糞をためることはしません。雛は巣からお尻を出して必ず外に糞をしますし、万が一巣の中でしてしまった場合は親鳥が咥えて遠くへ捨てに行きます。なので巣の中はとても衛生的なんですよ。

そのため巣の下に糞受けが必要になるのですが、新聞紙や段ボールを設置すると汚れても交換しやすいのでおすすめです。

交換が面倒と感じるかもしれませんが、ツバメが糞を落とす期間はせいぜい1ヶ月程度。ツバメの成長を近くで見られるという素晴らしい体験ができるので、その時だけはぜひツバメに協力してあげてほしいですね」と笠原さんはおっしゃいます。

また日本野鳥の会でも糞よけグッズを紹介(製品情報はこちら)しています。ぜひ参考にしてください。

幸運の鳥・ツバメの巣作りを見守ろう

ツバメは、天敵から逃れるために人間との共存を選択した数少ない野鳥。人間にとっても非常に身近な存在として、昔から愛されてきました。

「特に小さなお子さんを持つご家庭は、ツバメを通して豊かな心を育む情操教育ができます。もしご自宅や近所にツバメが巣を作ったら、ぜひ積極的に見守ってあげてください」と笠原さん。

神奈川は都心に限りなく近いですが自然もまだ多く残り、ツバメの巣作りには適した環境です。もしご自宅や近所にツバメがきたら、それは幸運のしるし。ぜひ神奈川でツバメと共に暮らす生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。