防災から考える家づくり。プロから学ぶ、ハザードマップを活用した土地選びのコツ

2022年12月13日

自然災害大国といわれる日本。特に近年は全国各地で大きな災害が続いており、家づくりにおいても耐震性や耐久性など災害対策への関心が高まっています。もちろん丈夫な家を建てることも重要ですが、災害が起きにくい土地を選ぶことも家づくりにおいては注目されるポイントです。
そこで今回はハザードマップを活用した土地選びのコツについて、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんに伺いました。これから土地探しを始める方だけでなく、すでに住みたい場所が決まっている方も、本記事を参考に防災に配慮した家づくりを考えてみてくださいね。

高荷智也(備え・防災アドバイザー|合同会社ソナエルワークス 代表)

「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントをロジックで解説するフリーの専門家。大地震や感染症など自然災害への備えから、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に定評があり、講演・執筆・メディア出演の実績も多い。防災YouTuberとしても多くの動画を配信中。著書に「今日から始める本気の食料備蓄(徳間書店)」他多数。1982年、静岡県生まれ。

土地選びは取り返しがつかない

開口一番、家づくりにおいて土地選びは失敗できないポイントだと語る高荷さん。
「家づくりにおいて防災を考えたとき、建物自体は建築技術で工夫ができますが、土地はそれができません。住んだ後にその土地が災害区域だと知っても、その事実を覆すことはできないのです。

また最近は本当に便利な防災アイテムが豊富にありますが、実際に家が潰れたり流されてしまったりすると、それらのアイテムを使うこともできず対策がすべて無駄になってしまいます。
防災アイテムを揃えることや保険に入ることももちろん必要ですが、それ以前により安全な立地を選んでできる限り頑丈な家を建てることが最も重要であると私は常にお伝えしています」

取り返しがつかないという意味では“究極の防災対策は引越し”ともいえますが、人生において何度も引っ越しすることは現実的ではありません。
高荷さんも「これから家を購入・賃貸する方は、防災面をしっかり確認して後悔しない土地選びをしましょう」とおっしゃいます。

では防災という観点から、どのようにして安心な土地を見分ければ良いのでしょうか。具体的な方法を高荷さんに伺いました。

「日本では、洪水や土砂災害、そして地震といった多くの災害があります。地震は避けることができませんが、地震以外の多くの災害は場所によって避けることができます。そのために活用したいのが、ハザードマップです。」

土地選びの際のハザードマップの正しい活用方法

土地選びの際のハザードマップの正しい活用方法

ハザードマップとは「防災対策に使用する目的で、自然災害による被害の度合いや、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」のこと。様々な災害が起きた際に、自分のいる場所がどれほど危険な状態になる可能性があるかを事前に知るためのツールです。

ハザードマップの種類

ハザードマップの種類

「ハザードマップには市町村が提供している街単位のものと、国土交通省が提供している全国を網羅したものの2種類があります。
手軽に使えるのは国土交通省が提供する『重ねるハザードマップ』、まずはこちらの地図で周辺の状況を確認してください。そして何かしらの影響が生じることが分かった場合は、市町村が作成するハザードマップで、より細かな情報および、避難先などを細かく確認するのがおすすめです。
スマホやパソコン上で使用できる無料のインターネットサイトで、全国各地のハザードマップを確認することができます。

この重ねるハザードマップは、複数の災害情報を重ねて表示できるのが特徴です。例えば、洪水、津波、土砂、噴火など、さまざまな災害に対応しています。

使い方も非常に簡単で、サイト内で住所を検索すると該当箇所に十字の印がつけられます。そして災害種別ボタンを押して色がついたところが、災害時に危険になる可能性が高い場所です。津波・高潮・水害の場合は想定される浸水深が色別に表示され、土砂災害の場合は災害の種類(地すべり・土石流・がけ崩れ)などが表現されます」

引用参考元:重ねるハザードマップ ~自由にリスク情報を調べる~

ハザードマップの見るべきポイント

ハザードマップの見るべきポイント

実際にこのハザードマップを用いて、どのようなポイントを見ていけば良いのでしょうか。
「住みたいエリアに災害の可能性がなければ問題ないのですが、それが意外と難しい。しかし同じ町内の中にも、安全な場所とそうじゃない場所が混在している場合がよくあります。
もし希望の場所がダメだったとしても、道を1本ずらすだけでリスクが下がる可能性はあるので、ハザードマップは細かく確認してください」

ハザードマップで色がついているからといって、必ずしもそこに住んではいけないということではないと高荷さんは言います。
では、どのような土地なら住んでも大丈夫といえるのでしょうか。ハザードマップから分かる土地の選び方について伺いました。

「まずは、洪水ハザードマップ。本当は沈む地域は避けてほしいところですが、東京のように沈まない場所がほとんどないような地域も多く存在します。そういった場合は、最低限“寝室が水没する高さは避ける”のがポイント。
洪水ハザードマップを見てみると、その場所が何m沈むかだけでなく、その水が何日間浸かったままになるのか、さらに土地や建物がバラバラに破壊される恐れがあるのか、ということまで確認できます。
例えば、最大5mまで浸水する可能性がある場所に住むなら、3階建て以上の部屋にしようと考えられる訳です。

次に、土砂ハザードマップです。土砂災害は、起きたときには家が飲まれるという瞬間的な災害ですので、土砂災害が起こりやすい地域はできるだけ避けたほうが良いでしょう。
どうしても土砂災害の可能性がある場所に住む場合は、木造住宅ではなく鉄筋コンクリート構造がおすすめです」

確かに災害が何も起こらない場所を選ぶことも重要ですが、それが難しければ、起こりうる災害の影響を受けない高さや構造を選ぶことが大切です。また高荷さんは、ハザードマップは“安全な場所を確認する地図”ではなく、“危険な場所を把握するための地図”であることを強調しています。色がついていないところが必ずしも安全であるとは限らず、想定よりも大きな災害が生じれば、ハザードマップで色がない場所も被害に合う可能性があることは胸にとどめておきましょう。

土地の相対的な高さがわかる『地理院地図』

土地の相対的な高さがわかる『地理院地図』

では災害の起こりやすさを知るために、ハザードマップ以外にも活用できるツールはないのでしょうか。

「津波や河川氾濫による洪水被害を避けるためには高い場所に住むことが重要ですが、土地の高さは目視では分かりづらいもの。土地の高さは『地理院地図』を見れば一目瞭然ですよ」と高荷さん。

「例えば標高が100mほどある場所で川が氾濫したとしましょう。そこが山を切り開いた土地で周囲も標高100m近くあるとすると、水はその地域の中の低い土地に流れていきます。
国土地理院地理院地図では土地の相対的な高さがわかるので、洪水のリスクを未然に知ることができます」

【調べ方】
①地理院地図で調べたい住所を入力
②地図の種類から「標高・土地の凸凹」を選択
③「自分で作る色別標高図」を選択

「他にも、その土地が昔からある土地なのか人工的にできた埋立地なのかなどもわかります。土地の成り立ちは地盤の強さに影響するので、それも参考になりますよ」

【調べ方】
①地理院地図で調べたい住所を入力
②地図の種類から「土地の成り立ち・土地利用」を選択
③「土地条件図」を選択
④「数値地図25000(土地条件)」を選択
⑤「i」マークをクリックし、凡例を表示

引用参考元:国土地理院『地理院地図』

防災は土地選びから。ハザードマップを活用して、後悔しない土地選びを

これまでに起きている災害はそのほとんどがハザードマップが示す通りに発生しており、ハザードマップを確認して自分のリスクを正しく把握していれば大きな被害は防げるはずだと高荷さんはおっしゃいます。
防災という観点から家づくりを考えたとき、土地選びは重要なポイントです。購入後に後悔することのないよう、ハザードマップや地理院地図を活用して、より安心できる家づくりをおこなっていきましょう。