オーバーハング建築とは? メリット7選。デメリットと注意点も解説

2023年1月5日

人気の高い都市部に住宅建築を考えるなら、オーバーハング建築を選択肢の1つに加えてみてはいかがでしょう。狭小地に住宅を建築する場合に特に有効な建築方法です。都市部では狭小地が多いので、床面積を増やせるオーバーハング建築について知っておくと選択肢が広がるでしょう。ここでは、オーバーハング建築のメリットやデメリット、事前に確認しておきたい注意点を取り上げます。

オーバーハング建築とは?

逆L字型のように1階よりも2階が外側へ張り出した形状を建築用語ではオーバーハングと言います。語源は、「張り出す」という意味の英語「overhang」。オーバーハングの手法で住宅空間を広げる建築方法が、オーバーハング建築です。張り出した部分は、「キャンティレバー」や「片持ち」とも呼ばれます。キャンティレバーの下は、軒下のようなスペースが生まれるのも特徴です。

オーバーハングのメリット7選

オーバーハング建築はどのような場合に適し、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。ここでは主なメリットをピックアップします。メリットを確認しながら、自分の住宅を建築する際に採用したいかどうか検討してみてください。

狭小住宅でも居住スペースを増やせる

オーバーハング建築によって2階部分の床面積が広がります。床面積が広くなれば、狭小住宅でも間取りプランに少し余裕が生まれるでしょう。キャンティレバー部分は室内の間取りの一部にするほか、広めのベランダやバルコニーとして活用する例もあります。キャンティレバーで狭さが緩和され、間取りの選択肢が増えるのは大きなメリットです。

基礎部分のコスト削減で予算を抑えられる

住宅建築の総コストのうち、基礎工事には大きな費用がかかります。オーバーハング建築では、キャンティレバーによって住宅の延べ床面積が広くなりますが、1階の床面積自体は変わらないため、基礎工事の範囲は基本的にオーバーハング建築を採用しない時と同じです。結果、延べ床面積に対して基礎工事のコストが抑えられるのです。

狭小地でも敷地の有効活用ができる

住宅の延べ床面積が増えても、1階の床面積を変えずに済むオーバーハング建築なら、狭小地でも、外の敷地に少し余裕を持たせる設計プランを立てられるでしょう。敷地に少しの余裕ができれば、敷地を有効活用する案も考えやすくなります。例えば、小さな庭を作るなど、狭いためにあきらめていたプランを再検討する余地が生まれるかもしれません。

土地探しの幅が広がる

土地探しをする際は、予算の範囲内で可能な限り自分の希望をかなえられる土地を探すのではないでしょうか。通常は、かなえたい希望の中に土地の広さについての条件も含まれます。例えば、周辺環境や立地条件などの希望を満たしていて予算的に問題ない土地でも、狭さから対象外となってしまうケースも出るはずです。しかし、オーバーハング建築によって、狭さの問題が解消できる場合もあります。特に、人気の都市部では狭小地が多くなるので、狭さが解消できれば土地探しの幅が広がるでしょう。

キャンティレバーの下を軒下スペースとして利用できる

キャンティレバーの下は、軒下スペースのように活用できます。雨や雪といった悪天候の時は特に軒下スペースがあると重宝します。通常、軒下スペースが欲しい場合には、庇(ひさし)や軒を付ける工事が必要ですが、オーバーハング建築なら住宅の空間を広げながら、自然と軒下スペースも確保が可能。キャンティレバーの下は、屋根のある作業場や子どもの遊び場、玄関ポーチなど、アイデア次第でさまざまに活用できるでしょう。

駐車スペースが確保できる

キャンティレバーの下は、雨の日も濡れずに車の乗り降りができる駐車スペースとしても便利です。また、家族みんなの駐輪スペースとするのも良いでしょう。駐車スペースとする場合は、敷地の中に新たに駐車場を作る必要がないので、利便性だけでなく、コスト的にもメリットが出ます。自分が車を所有していなくても、普段は作業場として利用し、必要な時に来客用の駐車場として併用するといった臨機応変な使い方も可能です。

デザイン性の高い外観の住宅が建築できる

キャンティレバーが印象的なオーバーハング建築なら、デザイン性の高い住宅建築も可能です。キャンティレバーを美しく配置することで、ハイセンスな外観に仕上がります。デザインにこだわったオーバーハングの設計プランに長けたハウスメーカーもあるので、公開されている施工例を参考に探してみると良いでしょう。

オーバーハングを使った設計プランのデメリットは?

オーバーハング建築には、どのようなデメリットがあるのでしょうか? ここでは、オーバーハング建築の主なデメリットについて挙げます。メリットと合わせて比較してみましょう。

耐震性が劣る

独特の形状から、オーバーハングを採用した住宅の重心は、通常の戸建てに比べると、より上の方になります。そのため、地震の揺れを感じやすく、一般的な戸建てより耐震性が低くなります。もちろん、住宅を建築する際には建築士がきちんと構造計算し、耐震性も考えて設計するので、オーバーハング建築自体が危ないわけではありません。一般的な戸建てよりは地震に弱くなる可能性が高い点を理解して、耐震補強策を取ることが大切です。

将来的に補修が必要になる可能性あり

キャンティレバーがあると、住宅に角が多くなります。外壁は角から劣化する傾向があるため、将来的には外壁の塗装・補修が一般的な戸建てよりも多くなり、メンテナンス費用がかさむ可能性もあるでしょう。

オーバーハングを利用する時の注意点

メリットとデメリットを比べてオーバーハング建築に魅力を感じたのなら、覚えておきたい注意点がいくつかあります。オーバーハング建築で留意すべきなのは以下の内容です。オーバーハングを採用する際には、忘れずにチェックしましょう。

建ぺい率・容積率に注意する

「建ぺい率」や「容積率」は、住宅建築の重要なポイントです。「建ぺい率」は、敷地面積に対して、どれくらいの建築面積の建物を建てられるかの割合です。「建ぺい率」は1階の面積で考えると誤解している人もいるかもしれませんが、実際には建物の中で1番大きなフロア面積で計算します。キャンティレバーがあるフロアの面積で考えるので、間違えないように注意が必要です。

また、合わせて「容積率」についても確認してください。「容積率」は、敷地面積に対する延べ床面積の割合です。すべてのフロアの床面積を合計するため、「容積率」を超えない範囲でキャンティレバーの面積を設定する必要があります。土地探しの段階で、しっかり容積率もチェックして計画しましょう。

キャンティレバーの幅に気をつける

キャンティレバーの幅は耐震性にも大きく影響します。キャンティレバーの幅が大きくなればなるほど不安定さが増すので、耐震性は低くなります。また、工法や建築材料など設計プランによっても、実現できるキャンティレバーの幅に違いがあります。キャンティレバーの幅については、建築士と相談しながら十分に検討しましょう。

浸水対策として水切りをつける

オーバーハング建築では水切りは必須です。キャンティレバーには必ず水切りを設置してください。水切りとは、基礎の上や窓の下につけられた仕切り板のことで、外壁や基礎を雨水による浸水や腐食から守る役目があります。水切りがないと、キャンティレバーから1階の壁に雨水が流れていって浸水し、外壁や住宅に傷みが出る要因になります。浸水対策として水切りは非常に重要な役割があるのです。

キャンティレバーに大きな窓の設置はしない

窓の有無によって、壁の耐久性に違いが出ます。構造上、窓のある壁の方が耐久性は低くなります。窓のサイズが大きくなればさらにそのリスクが高まります。常に負荷がかかっているキャンティレバーに大きな窓をつけるとさらに耐久性は下がってしまうのです。そのため、キャンティレバーに大きな窓を設置するのは避けましょう。できれば、サイズに関係なく窓はない方が無難ですが、採光対策でどうしても必要な時には小さめの窓を選ぶと安心です。

家具や設備の配置に留意する

きちんと構造計算された安全なオーバーハング建築でも、下に支えがないキャンティレバーにはあまり大きな負荷はかけたくありません。キャンティレバー部分に重い大型家具や室内設備を置くのは控えた方が良いでしょう。キャンティレバーへの負荷が軽い間取りや家具の配置が理想です。

基礎・構造など耐震性を上げる工夫をする

日本は地震が多いので、地震対策は住宅建築の重要なポイントとなります。特に、一般の住宅と比較して耐震性が劣るデメリットのあるオーバーハング建築では、建物の強度を上げる工夫が大事。基礎をキャンティレバー側に延長したり、柱の本数を増やしたりして、耐震補強するのも良いでしょう。また、鉄筋コンクリート造や地震に強いとされるSE構法を採用するプランも考えられます。

施工できないハウスメーカー・工務店がある

オーバーハング建築には高い技術が求められるため、施工できる会社は限られます。耐震補強までしっかりカバーできる、オーバーハング建築の技術力が高い会社を探すことが大切です。オーバーハング建築を希望する場合は、早めに情報収集して信頼できる会社に相談・依頼するようにしましょう。

耐震性に配慮しつつ、オーバーハングを活用して理想の住まいを

オーバーハング建築は特に狭小地の住宅建築において大きなメリットを発揮します。ひいては、オーバーハング建築によって、土地探しの幅も広がります。デメリットとして耐震性が劣る点が挙げられますが、耐震補強すればデメリットが緩和されます。興味があれば、施工ができるハウスメーカーや工務店を探してみましょう。また、展示場で実際の施工例を見てイメージしてはいかがでしょうか。