お金の専門家・横川楓さんに聞く!【前編】ミレニアル世代のライフプランニング講座

2021年7月14日

先の見えない不安があるなか、結婚や出産、育児といった人生の変革に直面するミレニアル世代(1980年~1995年生まれ)。これからどのようなライフプランを立て、未来に備えたらいいのでしょうか。

変化し続ける社会に生きる私たちが、住まい・子育て・仕事・家、そしてお金とどう賢く楽しく向き合っていくか。ファイナンシャルプランナーやMBAの資格を持つお金の専門家・横川楓さんが、ミレニアル世代に向けて解説してくれました。前編ではミレニアル世代のライフプランニングについて、続く後編では戸建て住宅の購入について、詳しくお伺いします。

教えてくれるのは横川楓さん

1990年東京都生まれのミレニアル世代。明治大学大学院卒、MBA取得。学生時代にアイドル活動を並行して行っていた異色の経歴の持ち主。
現在は「やさしいお金の専門家」の肩書きで、お金の知識を「誰よりも等身大の目線でわかりやすく届ける」ことをモットーに、さまざまなメディアへの出演、執筆や、講演を積極的に行う。著書は『ミレニアル世代のお金のリアル(フォレスト出版)』。Twitter

新型コロナで何が変わった?

まるでジャンケンの後だしのように変異株が現れ、先の見えない状況が続くコロナ禍。ワクチンの普及により少しずつ未来に光が差しつつありますが、まだまだ経済的には厳しい状況が続いています。
だからといって停滞していられないのが、結婚、出産と人生における大イベントが続くミレニアル世代。横川さんから見て、コロナ禍でミレニアル世代に何か変化はあったのでしょうか。

「以前であれば、いわゆる『ライフプランニング』を立てることがおすすめされていました。ライフプランニングとは、生涯に渡る生活設計のことで『何歳で結婚し、何歳で家を建て、何歳で子どもが大学生になってと、自分自身の未来予想図を描くことをいいます。でも、私たちミレニアル世代は、生き方や考え方が多様化し、そうした考え自体が薄れています。それこそ結婚しない人もいれば、子どもを持たない選択をする人も当たり前にいます。

コロナ禍でもこうした感覚は大きく変わってはいませんが、職を失ったり収入が著しく下がった人も少なからずいて、よりお金のことを考える人が増えたように思います」

コロナ時代のライフプランニング

ライフプランニングにあまり興味がないミレニアル世代。不安はないのでしょうか。

「そうですね。結婚したいか否か。子どもが欲しいか否か。家を望むか否か。各々が目標とする未来を想像してみることは大切だと思います。
ライフプランを考えるというよりは、結婚、妊娠、出産、家の購入、そういうものに『いくらぐらいのお金がかかるのか』くらいは知っておくべき。そう言ったほうが分かりやすいかもしれませんね」

考えるべきライフイベントとかかるお金

主たるライフイベントは、思った以上に多いもの。実際のところ、どのようなイベントがあり、それに対していくらかかるのでしょうか。

結婚

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467万円(日本FP協会発表、以下同)

「正直、自治体に書類を出し結婚したことを登録するだけであれば、お金はほぼかかりません。
最も多く費用がかかるのが結婚式と新婚旅行なので、お金がなければ式を挙げなければいいし、旅行も国内で済ませればOK。ある程度であればご祝儀でまかなえます。

ミレニアル世代で結婚を足踏みしている人の多くは、奨学金を抱えている場合が多い印象。そのため、結婚そのものが考えられないという人もいます」

出産

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51万円

「出産はとにかくお金がかかると思っている人もいるかもしれませんが、出産一時金や会社から出る祝い金、自治体からの補助金など、得られるお金も多いもの。
子供服やおむつ、哺乳瓶といった必需品の購入に備えておけば、そこまでお金がかかるものではありません。でも、子どもにはまさかがつきもの。できる限りお金を貯めておくことをおすすめします」

教育費

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1049万円(幼稚園から高校まで公立、大学のみ私立の場合)

「子どもを育てる、というライフイベントの中で最もお金がかかるのが教育費。幼稚園から大学まですべて公立に通わせることができても800万円以上が必要で、中学・高校・大学と私立に進んでしまうと2000万円以上かかることもあります。
子どもが望む環境を提供してあげるためにも、ある程度の資金を用意しておくべきでしょう」

文部科学省が平成30年度に発表したデータによると、子どもの学費として、下の金額が必要であるとされています(すべて年間額)。

幼稚園

・公立 22万3467円
・私立 52万7916円

小学校

・公立 32万1281円
・私立 159万8691円

中学校

・公立 48万8397円
・私立 140万6433円

高等学校(全日制)

・公立 45万7380円
・私立 96万9911円

いずれも、学校教育費、学校外活動費(習い事、塾、物品購入費などを含む)

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「教育のための費用として特に高額なのが、大学の授業料です。少子化が進んだことにより、大学への進学率は約5割と高水準です。専門学校などへの進学率も高くなっていて、高校生の8割以上が進学を選択しています。

しかし、家計事情からふたりにひとりが奨学金を借りているというデータもあります。子どものために進学を考えることは大切ですが、奨学金というのはあくまでも『借金』を言い換えたもの。子どもの未来のためと言いながら、借金を背負わせることになるということを考えて、ライフプランを立てましょう。

学資保険を利用するのもひとつの手ですが、使用目的が限定されてしまうので、私個人としてはつみたてNISAなど、自由に使えるお金で増やすことをおすすめします。なるべく早いうち、若いうちに、積み立てを始めましょう」

住宅購入

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「住宅購入は、人生で最も高額な買い物です。子どもが生まれ家族が増えると、住宅購入について考える人が増えますが、どれくらいまでなら払えるか、どのレベルなら無理なく暮らしていけるか、その点はしっかりと考えるようにしましょう。

いきなり知らない土地に家を購入するのではなく、一度賃貸で住んでみて、周辺の環境や生活のしやすさを調べてから購入することもおすすめです。環境というのは子育てにも直結しがちなもの。丁寧なリサーチが大切です。住宅購入についてのアドバイスは、後編で解説します」

その他

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老後の生活費 約26万円(夫婦ふたり分の月額/平成30年度総務省発表)
緊急資金 約60万円(生活費の約3ヶ月分)

「未来のことよりも目の前のことに精一杯になりがちなので、あまり考えることはないかもしれませんが、いざというときに使えるお金は必ずとっておきましょう。特に緊急資金。2030代で貯金がない、という人を多く見かけますが、病気やケガで入院してしまうと、高額な請求をされる可能性があります。

若いうちは死亡保険は一旦置いておいてもいいですが、医療保険への加入はぜひ検討を。ネットだけで販売しているものであれば月額700円~1500円程度のプランもあります。差額ベッド代や食事代、通院費など、入院にかかる出費はバカになりません。結婚、出産といったライフイベントに合わせ、入っている保険を見直すなどして、必要な保障が受けられるものを探してみてください」

ずばり!貯金はいくら必要?

「30代なら1000万円!と言いたいところですが現実問題としてはなかなか厳しいものがあるでしょう。資産全体として500万円程度あれば安心ではあります。

年間100万は貯めろ、と言う人もいますが、手取り20万円代で100万円貯めるのは至難の業。できる範囲で貯金や積み立てをし、未来に備える意識を持つ程度でいいと思います」

お金を貯めるには?

「ミレニアル世代は、ライフプラン云々の前に、『お金が貯められない!』と嘆いている人が多いもの。まずは自身のお金の流れをつかむことから始めましょう。スマホで家計簿アプリをインストールし、収支のバランスが取れているのか、必要ないことにお金を使っていないか、そうしたことを確認するといいと思います。

お金の流れをつかむために、キャッシュレスにするのもひとつの手。現金だと把握するのが難しいですが、キャッシュレスならお金をいくら使ったかが記録として残るので、把握しやすくなります。ちなみに、現金とキャッシュレスの二刀流は、出るお金が増えてしまうのでおすすめしません」

でも、現代社会は金利が低く、貯蓄に食指が向かない時代。今後起こるであろうライフイベントに向けてお金を貯めるためには、どうすればいいのでしょうか。

「個人的なおすすめは『つみたてNISA』です。投資信託のひとつですが、配当に対してかかる通常かかるはずの税金(20%)が非課税となる、個人投資家のための税金優遇制度になります。20年という長期に渡って行うものですが、100円程度の少額から始めることができ、証券会社から提示された中から投資したい商品を選ぶだけでOKと、初心者でも簡単にはじめることができるのがメリット。なるべく早く『つみたてNISA』をスタートするといいでしょう。

お金の流れを掴み、ムダ遣いをなくし、その分を積み立てる。こうして目標に向けてお金を貯める楽しさを知っていただければ、自然と堅実な生活が手に入るのでは?と思います」

未来を予測して的確な計画を立てる

「ライフイベントにかかる費用については、夫婦間できちんと話し合うことが大切です」と横川さん。

まずは毎月の貯金や積み立てを、今すぐにスタート。それから夫婦でじっくりとライフプランニングを行えば、未来に訪れるであろうライフイベントを安心して楽しむことができるでしょう。

Photo_Koji Kanatani Interview & Text_Megumi Waguri Edit_Yasushi Shinohara